



星籠の海 (上下巻)
島田荘司 (著)
講談社 (2013/10/03)
久しぶりの御手洗シリーズは、ロシア幽霊軍艦事件の前、日本での最後の事件。
事件の内容とか御手洗の(いい意味での)クドさみたいなものが少し薄まって、いつもより幾分あっさりしているかも。
物語に絡む幾つもの要素、そのどれもに淡泊さを感じた。
萌えネタ
物語は、御手洗と石岡君ってもう公認なの?みたいなサーヴィスカットで始まった。(新妻の)エプロンとか二人でひとつのベッドとか、それらにキャッキャウフフする女子とか。
わたしは一昔前のシマダリアン(ミタライアン&カズミスト)なので些細なネタにもいちいち食いついてしまうのだけど、こういうネタを島荘が書くのはちょっと無理がある気もするし、そんなにオープンな萌やし方じゃダメなんだよな、って思わなくもない。
珍しく御手洗自信が幼少期の思い出なんかを語るシーンは、すわセンチメンタル?
但しその内容は、モーツァルト・コンテストだとか算数コンテストとか、相変わらずご神童だったご様子で何より。でも、川に流される仔猫を見て人生の不条理を悟るなんざ、言葉こそ大人びているけれど、似たような思いをしていてちょっぴり共感。御手洗も人の子なんだな。
男女ネタ
各章のストーリや登場人物はまちまちで、なかなか繋がりが見えてこない上、心中しようかというような男女の話しに結構なページ数が割かれているものだから、ここが大事な所なんだろうとは思いつつも正直退屈だった(あ、逝っちゃった!)。
昼ドラのようなインパクトがあるから、事の顛末は気になるし、これをメインにしたおどろおどろしい連続殺人事件とかあったら面白そう、なのだけど、単に彼の性格を裏付けるための証言のひとつだとしたら・・・エッ!?と思ってしまうのはわたしだけだろうか。いや、たぶんわたしの人間性に問題があるな(^^;)。
わたしは男女ネタに疎くて、ほんと彼らの行動も気持ちもイマイチ伝わってこなかったのだけども、看護学生の心境だけはかなりリアルで唯一ハラハラ感があった。「自分中心」な考え方、わたしのせいじゃない!みたいな気持ち。これだけでひとつの短編になる。逆にいうと、これを長編の要(じゃないかもしれないけど)とするのはどうなの・・・とも。
ただ、これまでの島荘作品の「いろんな意味で可哀想(バカ)な女」扱いと、今回の女たちへの扱いは少し違うと思った。むしろ男の子の方がオバカさんに見える。過去をいろいろ踏まえた上の(今まで酷く言い過ぎた)贖罪でサーヴィスしたのかな。もしくは、読者のわたし自信が歳を取っていろいろと鈍ったか。
歴史ネタ
村上水軍とか幕末のあれやこれ、幾らか聞き覚えのある言葉に一安心。歴史の勉強は苦手だけど歴史っぽい話しを聞くのはわりと好き。
とはいえ、所詮わたしの知識なんて「聞いたことがある」程度。異議なんて申し立てようもない。御手洗に「これが正解だよ」と言われれば、「ああなるほど」て思えてしまう。
実際、村上水軍はバラエティに飛んだいろいろな船(潜水機能を備えた「竜宮船」などもあったらしい)や武器を持っていたと言われているし、わたしの「なるほど感」は増すばかり。
そんなわけで歴史っぽい話しは「ロマンよねぇ」てことで大体OK。
そうそう、因みにロシア軍艦もそういう感じだった。
謎解きネタ
一見壮大な事件は上巻の中で、ある程度(あっさりと)謎が解かれてしまう。一瞬気が抜ける。でも、まだ各章の繋がりとか「星籠」の謎とか残っている。もしかしたらもっとすっごいドロッドロした事件が起こるのかもしれない。御手洗が「しまったぁ」て言うくらいの!(淡い期待)
言ってしまえば、期待通りにはならなかったのだけど。
確かに最後は御手洗も少しは焦ったかもしれない。けれど、それは自分の推理というより、善良な市民である他人の良心に訴えかけた他力本願みたいな部分。なんだろコレ、解決シーンでこれは・・・と、思わずにはいられない。
それ以前に何時ものごとく、ついツッコミを入れたくなる事柄もしばしば。「そんな勘違いするヤツどんだけいるんだよ」とか・・・。ま、でも、それら全てをひっくるめてのシマダリアン!(謎の自信)。
思想ネタ
わたしが一番ピンとこなかったのが宗教ネタ。実在する団体の話しや、架空の物語とか、いくつか見聞きしているけれど、ここでの教団ネタはイマイチ際立たなかった。なんだろ、いろんな話しが詰め込まれすぎて気持ちが散漫しちゃったのかな。
すごく因みに、すごく昔の本だけど、オーケンの「新興宗教おもいで教」てあって、あれ恐らく下手くそな分類なのかもしれないけれど、新興宗教っぷりが凄かった記憶がある。あれはたぶんわたしの読んだ初めてのBL(違います)小説。
あとこれもいつものことだけど、犯罪を大小区別する島荘。犯罪の規模や被害者の数とか・・・。おそらく(踊る)青島くんがいたら室井さん以上に衝突している。
でも、年寄りと(意外と)子供には判りやすい情を見せる御手洗(島荘)がわたしは好き。
最後に
何だかんだ言っても、この本で一番男前だったのは忽那水軍!(結論)